以前の記事
2015年 07月 2015年 02月 2014年 11月 2014年 08月 2014年 06月 2014年 04月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2011年 12月 カテゴリ
ブログパーツ
外部リンク
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
2015年 02月 05日
念のため言うが・・赤い靴症候群という疾患名はない。
友人から、夕暮れの横浜港と、山下公園の赤い靴の少女の写真をもらった。それを見ていてふと思いついた言葉なのだから。 赤い靴といえば、アンデルセン童話の、踊り続けたあの少女を思い出す・・。 K子さんが初めてクリニックを訪れたのは、もう、10年前になる。 確か始めは、お子さんの相談だった。高校生の娘さんが、朝起きられなくて困ったというものだった。でも、私には、けだるそうな娘さんより、隣で思い詰めた様子で話すK子さんのほうが、妙に気になった。 思ったとおり、程なくK子さんは一人でクリニックへやって来た。 「手がブルブルふるえて困るんです。朝は大丈夫なんですけど、仕事帰りになるとふるえてきて、買い物のレジでお金を渡す時、いつも変な顔をされてしまいます。」 K子さんは、仕事を続けながら、二人のお子さんを育てていた。ご主人は、単身赴任で、毎週末には帰って来る。近所には、要介護の母親がいて、いつも気がぬけないという。一人で何役もこなしているがんばりやさんだ。 彼女がクリニックに来ると、いつも待合室から、癖なのか、大きなため息が繰り返して聞こえてくるので、すぐにわかった。 「朝は、3時に起きます。子供達のお弁当を作って、起こしてご飯食べさせて出勤します。私が寝坊してはいられないので、何時に寝ても3時には目が覚めてしまいます。睡眠時間は3時間ちょっとです。」 私は、気持ちを落ち着けて、ゆっくり眠れるような漢方薬をだした。K子さん、薬を飲んではいるが、なかなか生活パターンは変えられない。起きないお子さんを送り迎えしたり、学校のそばに短期で住み替えたりして、やっとお子さん達が卒業。大学に入って家を出て、役目から解放されたと思ったのもつかの間、母親が骨折し、車いす生活になった。施設を探すが、なかなか見つからない。今度は、介護生活の日々。その頃から、K子さんは、食事がほとんど取れなくなってしまった。とうとう体重は40kgをきった。体力を維持する漢方薬で何とかしのいだ。 やっと施設に入所できたら、今度はご主人が病気になって自宅に帰ってきた。何度かの手術を経て、去年の春、見送った。 今、K子さんは、仕事をやめ家にいる。しかし相変わらず3時に起きる生活をしている。 「先生、私、もう眠り方忘れちゃいました。朝起きると、よほど強く手を握りしめていたのか、手の平に爪の痕がくっきりと付いています。時間のある日は、ジムに通っていますが、ランニングマシンで走っていると、体中にさむイボができて冷えてしまいます。どうしたらいいんでしょ。」K子さんは、手がブルブルふるえることはなくなったが、今も緊張を和らげる漢方薬を飲み続けている。 あまりに強く引っ張り続けたゴムのように、張りつめた緊張の糸は、緩まることができないまま、今だに気持ちは休まっていないのだ。 アンデルセンの、あの赤い靴の少女は、踊り続けて止まることができず、とうとう自分の足を切り落としてもらって、やっと止まった。 (K子さん、もう、踊り続けなくていいんだよ。止まっていいんだよ。) 今日もまた、診察室を出る背中を祈るように見つめる私である。 ![]()
by meguro-kanpo
| 2015-02-05 19:18
|
ファン申請 |
||