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2014年 04月 11日
(あら、泣いてるのかしら?)
思わず私はS氏の目を覗き込んだ。色白で細身。白眼が充血し、唇は紫色だ。診察室に入って来た時から、S氏の全身は小刻みに震えていた。話し出すと、唇がさらにワナワナと震えるので、まるで泣いてるかと錯覚してしまったのだ。 「だるくて、吐き気がして、眠れないんです。」絞り出すように話だした。45歳のS氏は、4年前、社員20人の商品企画会社へ転職した。彼はこの会社で、コンピューターシステムをたった一人で受け持つエンジニアだ。新しいシステムの立ち上げで、ここ数ヶ月休みらしい休みは取っていないという。 「もう、3年くらい前からです。とにかくだるくてだるくて。明け方近くまで寝付けず、やっと寝てもすぐ目が覚めて、もう眠れません。目をつぶると頭の中がグルグル回っている感じなんです。週末の夜と月曜の朝は、必ずといっていいほど食後に吐きます。」 一年で、10kgも体重が減ったが検査はすべて異常なし。その後、神経内科も受診したが、結局“働き過ぎですよ”と言われて睡眠剤が処方された。それを飲んで、何とかだましだましやってきたが、ここにきて、もうどうしようもないくらいシンドイ状態だという。 「前から時々胸が痛むことがあったのですが、つい2ヶ月前の夜中、死ぬんじゃないかと思うような激しい胸の痛みに襲われて、救急車を呼びました。ところが検査しても異常なしで、安定剤がでました。」その後何軒か病院へ行ったが、判で押したように、“疲れ過ぎ。ストレスが溜まっている。”と言われるばかり。最近は何をするのもイヤになったと言ったら抗うつ剤も処方された。 「体調はどんどん悪化するばかりです。」 おなかを診察すると、腹部は、極度の緊張状態を示していた。そこで、体と心の緊張をゆるめるような漢方薬を処方した。 2ヶ月ほどたったある日、診療開始前にS氏はやってきた。仕事は多忙を極め、体調は最悪。通勤の途中でクリニックに立寄り、鍼治療をしたいと言う。吐き気もひどく、枕元にエチケット袋を置いて鍼を打った。頭から顔を打ち終えた時だった。例によって、全身を小刻みに震わせていたS氏が、さらに激しくブルブルと震えた。すると、それまで打った7本の鍼が一度にポロリと抜け落ちたのだ。2mmくらい刺さっている鍼が全部抜け落ちるなんて。私は、S氏の緊張が伝わっていたたまれなくなった。 その後、漢方薬と鍼治療を併用しながら半年ほどたった頃、鍼を受けながら、S氏はボソリと言った。「自分でも責任感が強すぎるって思うことがありますよ。」 仕事はもちろん、家庭でも、中学生と小学生の子の良き父、良き夫であろうと努めていると言う。普段家のことを専業主婦の妻に任せっきりなので、せめて帰宅してから、妻の愚痴を聞くようにしている。しかし、最近は何となく緊張感を感じ、妻と向かい合っていると、急に心臓がドキドキして苦しくなるという。 (なるほど。これじゃ息の抜ける場所がないんだ。)妙に納得した。 やがて、吐き気も治まり、胃腸の調子が良くなると、S氏は少しずつ自分の体に自信を取り戻していった。 そんなある日、突然、「先生、思い切って一ヶ月会社休むことにしました。」体調が良くなったことで、前向きに自分を見つめ直したいのだと言う。『それはいいですね。でも、休み始めは、症状が一時的に悪化しますので、ビックリしないで下さいね。』とアドバイスした。 休みが終わるころ、S氏はやってきた。「言われたとおり、二週間は動けませんでした。やっと落ち着いてきた所です。毎日はぜ釣りしてます。今が最盛期で、一日中釣り糸を眺めています。昨日は、100匹も釣れましたよ。」とうれしそうに陽に焼けた笑顔をみせた。その顔にはもう震えはなかった。 ・・・いい笑顔。いいリセットができたみたいだ。 ![]()
by meguro-kanpo
| 2014-04-11 15:13
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